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アニメビジエンス編集部からのお知らせ、また本誌からの記事の一部や、誌面スペースの関係でカットされた記事などを掲載しています。

2017.08.03 | PICKUP

【Vol.09 掲載記事】海外向け配信の先に見据えるもの ー新生DAISUKI.netの目指すエコシステムとは?

【INTERVIEWEE】株式会社 アニメコンソーシアム ジャパン 代表取締役社長 鵜之澤 伸

【「DAISUKI」サービス終了告知/緊急掲載】

ゲームビジネスと15年歩んで

 「アニメ業界だけでは課題は解決しません」──鵜之澤氏はそう強調する。そのベースにあるのは、氏が経験してきた家庭用ゲームビジネスの展開史だ。

 「まず2000年のPlayStation2の登場で、ゲームを巡る環境がガラッと変わりました。DVD再生機能が市場に評価され、新たに開発した『ガンダム』のゲームよりも、DVD化した劇場3部作のほうが売れる、なんて状況が生まれたんです(笑)。そして、ハード機能の向上に伴い開発費が高騰し、仮に国内でゲームが大ヒットしても、なかなか開発費を回収するまでには至らない。そこで、2000年に『ドラゴンボールZ』のゲームを企画開発を開始する際、『アニメがすでに放送されていて、作品もよく知られているはずの海外販売にチャレンジしよう』ということになりました」

 蓋を開けてみると、北米で約100万本、欧州では200万本が売れる大ヒットとなった。日本とは桁が違う海外市場の反応に「嬉しかった以上に、ビックリしましたね」と鵜之澤氏は振り返る。そこからバンダイ(当時)としてのゲームの海外販売が本格化していく。

 しかし、そこに大きな壁が立ちはだかった。日本はともかく、世界でゲームのヒットを望めるレベルに認知されているIPは、実はそれほど多くないなか、ゲームビジネスを成立させる基盤としてのアニメ、そしてそのTV放送の重要性を鵜之澤氏は目の当たりにすることになる。

 「日本では2002年にアニメがスタートし、2003年にPS2のゲームソフトを発売した『NARUTO』は、海外で日本と同じタイミングでの地上波放送がされていなかったため、キャラクターの認知度がないことを理由にゲームソフトを日米同時発売することができませんでした。ようやく2005年に北米で「少年編」と言われている第一期の放映がスタートしたのですが、日本と北米ではアニメの進行度合いが違うため、日本で発売する最新のアニメストーリーに合わせたゲームソフトは販売することはやはりかなわず、大きなビジネスチャンスを2回に渡り逃しました。そんななか、違法サイトでのサイマル配信が始まり、2009年に正規に許諾を得たサイトからサイマル配信がスタートすると、アニメの人気に合わせてゲームソフトも発売できるようになり、今ではワールドワイドで200万本を超える出荷数を誇る有力IPになりました。放映ではなく、配信によるキャラクター認知の向上と周辺商品のビジネスチャンスが裏付けられた印象深い作品です」(鵜之澤氏)

 バンダイナムコはそれまでパートナーだったフランスのアタリ社を2009年に買収し、ヨーロッパ16ヵ国の拠点と200余名の現地スタッフを活用した発売・販売を強化していった。もともと自前で持っていたアメリカ、アジア拠点を起点に『鉄拳』『エースコンバット』『リッジレーサー』といった自社IPに加えて、アニメ連動タイトルも世界展開できるようになったのだ。アニメと異なりゲームは、はじめから海外展開を意識して開発され、言語・表現への対応も進んだ結果、ほぼ世界同時発売が可能となっていく。アニメのサイマル配信と、世界同時展開が可能となったゲーム。そのふたつが歩調を合わせるようになった結果、タイトルによって増減はあるものの、日本1・北米5・ヨーロッパ4という比率のもと、回収を見込めるゲームビジネスが展開していく。

 ところが、次に直面した変化が、スマートフォンの普及と、それに伴うソーシャルゲーム、つまりフリーミアムビジネスの台頭だ。

 「インターネットはあらゆるコンテンツのセグメント、商流の壁を取り払うことができる。スマホひとつでアニメもゲームも楽しめるようになって、アニメもゲームもパッケージだけを前提としたビジネスモデルは成立しにくくなっています。以前のアニメビジエンスの取材でも『これからはソーシャルアニメだ』なんて言っていたら、自分がACJの社長をやることになってしまった(笑)」

 これまでアニメの海外展開といえば、TVへの番販が前提だった。そのための現地エージェントがあり、国内組織があり、現在でも「海外へはまずサブライセンス」という意識は業界内に根強い、と鵜之澤氏は指摘する。しかし、配信を前提とした新しいビジネスモデルへの対応を図っていかなければ、課題の解決は図れない、と鵜之澤氏。それが現在の「配信バブル」とも呼べる現状の「数年後」に備えることにもつながっていく。

 


「アニメ=TVアニメ」からの脱却

 バンダイナムコエンターテインメントだけでなく、セガ・カプコン・コナミなど大手ゲームメーカーは軒並み海外に拠点を置き、エージェントに任せるのではなく、自社で発売・販売を行ってきた。13年間のアニメビジネスと15年にわたったゲームビジネスと両方の変遷を見てきた鵜之澤氏からみれば、世界展開に対するゲーム業界の取り組みに比べ、アニメビジネスモデルはまだTV局にむけたライセンスという前提を引きずっている、とも映る。

 そのようなアニメ業界の商慣習の中でACJ設立前のDAISUKI株式会社は作り手(ライセンサー)だけでビジネスの仕組みが構成されてしまっていた、と鵜之澤氏。結果として旧体制の「DAISUKI.net」にはタイトルがなかなか集まらず正直苦労していた。バンダイナムコの関連事業会社として機能することでアニメ配信の新しいビジネスモデルが構築できる、と考えている。

 しかし、本特集でも見てきたように、現在海外大手サブスクリプション型VOD(SVOD)事業社が、一斉にアニメの調達に動いている。「配信バブル」とも呼べる状況の中、現状はADVODのみとなっている「DAISUKI.net」はどのように作品を調達し、回収を図っていくのだろうか?

 「今の配信バブルは正直、過熱しすぎの状況だと思います。もちろん、それは権利元やクリエイターにとっては決して悪い話ではない。オリジナル作品が作れたり、1話あたりの予算が潤沢になって、日本のアニメのクオリティがさらに高まることにもつながるでしょう。でも、それは何年も続くことでしょうか? SVODサービス事業者間の競争が一段落し、カタログが整えば、彼らも現在のような条件で、例えば独占配信を前提とした契約で作品を調達するという動きを続ける理由はありません」

 そう鵜之澤氏は釘を刺す。「MG競争に参加するつもりはない」と断言する鵜之澤氏率いるACJが進めるのが「DAISUKI.net」のプラットフォーム化だ。そこでキーワードになってくるのが「フリーミアム」。元来TVアニメは、周辺商品販売と、スポンサーからの広告収入を前提としたフリーミアムモデルで展開を続けてきた。

 「そもそもバンダイも『仮面ライダー』以来、ずっとフリーミアムビジネスを展開してきたといえます。TV放送は仮面ライダーを知ってもらい、好きになってもらうためのものと捉えているのです。作品を見るために視聴者からお金を取るなんてことはやってこなかった。作品を好きになったユーザーに、変身ベルトを買ってもらうことで回収を図ってきたわけです。そのような意味では映像パッケージソフトもキャラクターグッズの一種といえるのではないでしょうか。このようなモデルは世界的に見てもアニメくらいではないかと思いますが、しかしこのモデルがこれまでは海外では十分に展開できておらず、商流が途切れていたのです」

 本誌でもVol.04で当時のDAISUKI株式会社柴田社長(現取締役)にインタビューを行った際、柴田氏は「海賊版ではなく、正規の商流への誘導を図る。そのためのDAISUKI.netでの無料視聴」である点を強調していた。目指す方向性は共通しているが、「ゲームとアニメ」の両方のビジネスモデルを見てきた鵜之澤氏はよりゲーム、それもアプリでの収益確保の実現に意欲を見せる。

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「アニメアプリ×ゲームアプリ」で生まれる商機

 いまTVアニメのCMにはソーシャルゲームが頻繁に登場するようになった。フリーミアムモデルが前提のソーシャルゲームは、無料で遊んでもらうプレイヤーをできるだけ多く獲得し、その中からゲームを快適にプレイするためのアイテムを買ってもらい回収を図るのが主流だ。フリープレイのユーザー獲得が、プレミアム型ビジネスの根底となる。

 「BNEが手がける『アイドルマスター』のようなIPを活用したソーシャルゲームと、アニメ配信メディアとの親和性は高い。そして、スマホを舞台とすれば、TVやPC以上にそのシナジーをさらに高めることができるはずなのです」

 先行事例はある。鵜之澤氏が挙げるのが、セガネットワークスが主体となって運営している「Noah PASS(ノアパス)」だ。スマホアプリゲーム約100社が参加し、450タイトル以上のゲームアプリが参加しているNoah PASSは、ゲーム間で相互にアプリ広告を出し、相互に層客を行う一種のアドネットワークだ。

 Noah PASSに参加するアプリのプレイヤーは膨大な数に上る。このネットワーク間で共通で利用されているIDは1億を超えるのだ。もちろん複数端末所有による重複や機種変更に伴って非アクティブになったIDも含まれるが、このID連携こそが、「アニメアプリ×ゲームアプリ」という世界でも、商機を生むのだと鵜之澤氏は考えている。DAISUKI.netが現在実現している多言語配信と、ゲームアプリが連携してユーザーが回遊するエコシステムの実現のためにはID連携が欠かせない。

 「バンダイナムコグループ独自のIDシステム「バンダイナムコID」は3000万IDを超えました。このノウハウを活かして、DAISUKI IDを準備しています。このIDをネットワーク間で内部的に利用することによって、例えばDAISUKI.netであるアニメを見ているユーザーに、そのアニメのソーシャルゲームの広告を表示して送客を行うのはもちろん、ある話数で登場するアイテムとゲームを連携させる、といったことも可能になるのです」

 現在でも、アニメ権利元にとってゲームアプリメーカーからの版権収益は遊技機に比類する大きな規模のものとなっている。スマホ上のアプリをネットワーク内のIDを通じて連携させることで、アニメとソーシャルゲームの連動をより密なものにしていく。ACJは、DAISUKI.netのADVODに加え、今冬のリニューアル時に予定しているSVODによる収益、さらにこのID連携による収益によって、調達コストの回収を図り事業を拡大していく構えだ。

 「DAISUKI IDはオープンな仕様を予定しています。したがって、ソーシャルゲーム運営各社が現在使用しているIDとも連携可能です。今までにない新しいサービスの可能性が広がります」

 現在配信の世界で起こっているのは、あくまでSVODのユーザー獲得競争だ。ACJの取り組みはそこから一歩先に進み、ゲームアプリとの連携を軸に継続的なエコシステムの構築を目指すものに見える。鵜之澤氏はひとつのイメージとして、現在韓国で展開中の『アイドルマスター シンデレラガールズ』の事例を挙げる。ゲーム内で日本国内とほぼ同じタイミングで毎週最新話数を配信。ゲームのプレイユーザーの40%近くが鑑賞し、ゲームの再生回数に応じたゲームのインストール数とその継続率に貢献するコンテンツとして、有効だという。

 「このような仕掛けを用意することは、収益面でメリットがあるだけでなく、ユーザーにとってもより便利で楽しい体験を提供することで、海賊サイトを駆逐することにもつながるわけです」と鵜之澤氏。インターネットとスマホの普及によって無許諾配信の蔓延とパッケージビジネスの後退がもたらされ「アニメだけでは課題は解決できない」状況が生まれたが、ネットとスマホが連携することで新たなビジネスチャンスも生まれようとしている。そのためのプラットフォームとしてDAISUKI.netの果たす役割は大きいと言えそうだ。今冬を目標に進められているというバージョンアップに大いに期待したい。

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