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アニメビジエンス編集部からのお知らせ、また本誌からの記事の一部や、誌面スペースの関係でカットされた記事などを掲載しています。

2015.04.08 | PICKUP

クリエイターズVOICE<第2回>

アニメーション監督 小池健

前号よりインタビュアーとタイトルも新たに、クリエイターを掘り下げるコーナーの第二弾。今回は、最新監督作『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』が話題のアニメ監督・小池健氏にそのルーツや作品についてお話を伺った。

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川尻監督との出会いと仕事

―金田伊功さん、天野喜孝さんの絵がお好きでこの世界に入られたとお聞きしました。
小池健(以下、小池):そうですね。子供の頃から絵を描くのが好きだったということもあって、アニメもずっと観ていました。『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』のブームがあって、特に『無敵超人ザンボット3』や『無敵鋼人ダイターン3』の重々しいアクション系とか、劇場版の『銀河鉄道999』(79年)のみなぎるようなエレクトのシーンなどがすごく好きで、それでアニメーターという職業があることを知って、この業界に憧れたというのがきっかけですね。

―中学生のときにはアニメーターになろうという思いが募っていたわけですね。
小池:高校生ぐらいで「就職どうしようかな」と考えているときに、ちょうど『幻魔大戦』が公開されて、それを制作していたマッドハウスで募集があったんです。自分で描いたものを事前に送らせてもらってスタジオに行ったら、川尻善昭監督が面接をしてくださったんですね。そのときも絵をいっぱい持って行ったら、「こんだけ好きだったら、やれば」みたいな感じの軽い面接試験で(笑)。合格というか「来てもいいよ」という形で入ることになりました。

―最初に川尻監督作品に参加されたんですよね。
小池:マッドハウスに入って一週間ぐらいで『迷宮物語※1』の初号試写があって、それを観たときにもうメチャクチャびっくりしたんですよね。特に川尻監督の『走る男』はスタイリッシュな大人向けのアニメで、近未来のメカがものすごくリアルに動くその表現がもうたまらないというか、しびれたというか、鳥肌が立ちました。それで、動画から始まって、川尻監督作品にどっぷり浸かりながら作画の勉強をした、という感じですね。

―特に印象深かった作画のお仕事はなんでしょうか。
小池:やっぱり川尻監督の『獣兵衛忍風帖』ですかね。ひとつのシーンを作り上げるということがアニメーターの仕事として確立されているんだなと実感できましたし、特に川尻監督の場合は短いカットがいっぱいあって、1カットだけを丹念にやってもわからないようなこともあるんですけど、それがアクションの中に組み込まれて繋げてみるとテンポが良くなったりかっこいい組み立てになるということを勉強させていただきました。

―その後、独立されて。
小池:独立というか、もともとフリーで席を借りていたわけですが、『ジャイアントロボTHEANIMATION地球が静止する日ー』をやらせていただきました。でもマッドハウスを出て仕事したのはその1回きりで、すぐ戻って川尻監督の『VAMPIREHUNTERD』をやって、それが終わったあたりに実写映画、石井克人監督の『PARTY7』のオープニング・アニメで初めて自分のディレクションをさせていただきました。

―石井克人監督とのお仕事が多いですが、きっかけは何ですか。
小池:石井監督自身もアニメーションが好きでいろいろ観られていて、マッドハウスが作った海外のゲーム※2のプロモーション・ムービーを観て「こんな洋風な絵を描ける人がいるのか」と思って僕にオファーしてくださったという流れです。石井監督が「自由にやっていいよ」というスタンスでやらせてくださったのが『PARTY7』なんですが、意外と評判が良くて、ここから自分のスタイルを作っていったという感じです。

『ルパン三世』というタイトルと今後

―最近の作品としては『峰不二子という女※3』や『次元大介の墓標』といったルパンシリーズがありますが、これはどういった経緯で。
小池:後輩の山本沙代監督が「新しいルパンをやるんだけど、キャラクターデザインをやってくれないか」という話を持ってきて、山本監督やプロデューサーと話をさせてもらったら「原点回帰でもう一度モンキー・パンチ先生の雰囲気を踏襲して、小池さんらしいキャラクターを作ってほしい」というものだったんです。僕自身、モンキー・パンチ先生もルパンも好きだったので参加させてもらいました。それが『峰不二子という女』です。その後、次回作を作るとなったときに、次元の回の人気が高かったのと、僕自身が「次元を表現してみたい。あの佇まいがかっこいい」という思いもあったのでぜひ次元でいこうということになり、『次元大介の墓標』が始まった訳です。

―先ほどおっしゃった、原点回帰という発想はどこから生まれたのでしょう。
小池:市民権を得ている『ルパン三世』というのはすごくファミリー向けのルパンになってるじゃないですか。皆様から支持いただいているものだからそれはいいとして、でも僕らが子供の頃に出会ったファースト・ルパン(71年にOAされた最初のTVシリーズ)とか複製人間マモー(『ルパン三世』初の劇場映画『ルパン三世ルパンVS複製人間』)は、大人ペースなアニメーションだったんですよ。だから、ああいう雰囲気のルパンにもう一回戻れないものかと探っていったことが、原点回帰に繋がっていきました。

―ファミリー向けのルパンとふたつのラインができて、おもしろいですね。
小池:今回の『次元大介の墓標』をやるとき、ファースト・ルパンの雰囲気は欲しいけど、そういう形式だけを真似ても、たぶんそこに到達できないと僕なりに思ったんです。それで、まずは作品に取り組むうえでその時代背景を考えてみたくて、モンキー・パンチ先生がルパンの連載を始めた60年代後半とファースト・ルパンが放映された70年代前半に、大隅正秋監督たちがどのようにルパンというものを考えていたのかなって考えたんです。そこで、見えている社会とは別の世界で別の利権を狙ってる裏社会みたいなものがあって、そこの上前をかっぱらうような奴がルパンなんじゃないかなと思ったんです。

―時代から再構築していったのですね。
小池:『次元大介の墓標』は、そういうふうに個人個人のスタンスをしっかり捉えていけば、また違う視点の原点回帰になるんじゃないかということで取り組んだ作品なんです。よりルパンらしいものを作るにはどうしたらいいかということを考えて向き合った作品でもあって、『REDLINE※4』までは自分の個性を出した作品ではあるのですが、ルパンからはとにかく自分の作家性みたいなものを封印して作ろうと思いました。

―封印しつつも、小池監督特有のスタイリッシュな世界観があって、ディテールへのこだわりも強く感じられました。
小池:ファースト・ルパンでは、ルパン自身がかっこいいスーツを着こなしたり、ハイブランドの時計やブーツを身につけていたんです。他にも銃や車は実際にあるものを使って表現されていたものを子供の頃に観ていて、アニメーションで大人の世界を垣間見たという印象がすごく強く残っている。その雰囲気をもう一度取り戻したいという思いがあって、小物にはすごく気を遣って描写したというのはあります。

―お話を伺っていると、ルパンもぜひ続けて欲しいのですが、今後はどのような作品を手掛けたいとお考えですか。
小池:どうしても僕のフィルターを通すと多少サブカル調な雰囲気というか、「やっぱ小池さんの雰囲気だよね」というのがわかっちゃうという意見もいろんな方からもらうんですよね。だから封印するぐらいがちょうどいいかなと思っていて(笑)。そういうサブカルなところはどうしても滲み出てくるところがあるので、自分のカラーを多少出しつつも、できるだけエンターテインメントな作品を作っていきたいと思ってます。今回みたいに超エンターテインメントなルパンと掛け合わせて自分のフィルムを作るというのは非常に魅力的でおもしろかったですし、チャンスがあればまた作っていきたいというのもあります。逆にオリジナルもやっていきたいですが、今回のような文法とはまた違ったアプローチでいろんな取り組み方をしていく必要があるかなとは思っているんですね。『次元大介の墓標』という作品に関しては、すごくエンターテインメントに徹して、おかげさまで良い評判をいただいていて、間違いなく自分の中では分岐点のひとつになった作品ではあると思っているので、この経験を活かして次のステップに進めればと思っています。

※1 りんたろう監督作『ラビリンス・ラビリンス』、川尻善昭監作『走る男』、大友克洋監督作『工事中止命令』の短編3作によるオムニバスアニメ作品。
※2 MTVで放映された全10話の短編アニメ映画『AEON FLUX』(のちに実写映画化されたのがシャーリーズ・セロン主演の『イーオン・フラックス』)のゲーム。
※3 『LUPIN the Third -峰不二子という女-』:TVアニメ『ルパン三世』の放送開始40周年を記念して制作されたTVシリーズ(2012年OA /山本沙代監督)。小池氏はキャラクターデザインと作画監督を担当。
※4 2010年公開の小池監督作品。

[Interviewer] 井上伸一郎

株式会社 KADOKAWA 代表取締役専務
エンターテインメント・コンテンツクリエイション事業統括本部 統括本部長/アニメ雑誌「アニメック」の編集業務に携わった後、「月刊ニュータイプ」編集長、「月刊少年エース」の編集長等を歴任。

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