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アニメビジエンス編集部からのお知らせ、また本誌からの記事の一部や、誌面スペースの関係でカットされた記事などを掲載しています。

2015.04.08 | PICKUP

福井健策の著作権と法務とアニメ <第2回>

「同人マーク」は、果たして日本の二次創作文化を救うのか?

さて、巷で話題の「同人マーク」である。

同人マークとは、漫画やアニメなどの作品に作者が自由意 思で付けるロゴで、ざっくり言えば「この作品はオタク同人誌 で自由にパロティ化して良いですよ」と宣言するもの。こういう社会に向けて作品利用のルールを示すことを「パブリックラ イセンス」といい、世界的に普及するクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC)が著名だ。今回はCCを日本で運営する コモンスフィアというマジメな団体が、オタク二次創作に的を絞ったマークを世界で初めて(←当たり前だ)提唱。人気漫画家の赤松健さんが「週刊少年マガジン」の新連載作に使って ※1 ネットの話題をさらった。なぜか筆者と骨董通り法律事務所も協力している。

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基本的には「エロ」を含めてどんなパロディもOK。ただし、原作者が公序良俗に反するなどと判断した場合には、以後の販売は止めることができる形。また、コミケなどの即売会当日の紙の同人誌での配布だけを許す。作者がデジタル配布や常設販売なども許したいと思えば、そう付記すれば良い。
このマーク、世界的に普及するCCとどう違うのか? CCは、原作をそのままコピーして配布する行為(デッドコピー) は必ず許すルールだ。それだと学術資料などには向くが、商業誌のマンガや商業アニメには付けられない、と赤松さん。コミ ックスをそのままコピーして販売するような行為も許しては商売にならないという。まあ、そりゃそうだ。そこで「二次創作は許すが、そのままコピーはダメ」というライセンスが発案された。少し対象は違うが、似た先行例として「初音ミク」のデザインがある。
マークのきっかけは、意外なことにあのTPPである。日本は、 コミケに限らず様々な二次創作が花開いて来た文化。夏冬50 万人の入場者を誇りオタク文化を象徴するコミケだが、同人誌 の75%までが既存作品のパロディ系とされ、厳密にいえば原 作への著作権・著作者人格権侵害の疑いがある。しかし、作家側・出版社側も必ずしも同人誌がなくなることまでは望んでは いない。正式な許可は出しづらいけれどやり過ぎなければ問題視はしない、いわば「黙認」「放置」が続いて来た。このグレ ー領域と相性が良かったのが現行法の刑事罰の扱いだ。著作権侵害には刑事罰があるが、それは「親告罪」といって、被害者 (権利者)の告訴がないと国は起訴も処罰も出来ない。「黙認」 文化との相性が良かったのだ。
ここで登場したのがTPPである。交渉の中で米国は、他国に著作権侵害を「非親告罪」にすることを求めている。通れば、 権利者の告訴がなくても起訴・処罰が出来てしまう。仮に第三 者通報などと結びついたら、二次創作文化の萎縮につながらないか。交渉の帰すうはまだわからないが、そうした危機意識が ネットで高まる中、今回のマークの試みとなった。これ自体どんな効果や課題があるか注視したいが、問題の根底にあるのは 「ファンの発信活動をどう評価し、共存するか」という問いだ。 たとえば「ファンサブ」という言葉がある。日本のアニメや漫画に海外のファンが現地語で字幕・翻訳を付けて動画サイトなどで公開してしまうものだ。多くの国では著作権侵害にあたり、 実際、海賊版同然の活動もあったりする。ところがこのファンサブ、他方で功罪論も盛んなのだ。「現地語版がまだ存在しない地域で、ファンが手弁当で現地語版を広げてくれる。それで人気が高まって正規ビジネスの土壌が出来るなら良いではないか」という議論だ。
ふむ、なるほど。無論それだけでうまく行くなら誰も苦労しないのだが、全ての人が発信者となった現在、どこまでの無断利用を取り締まり、どこからはファンの自由な発信を許すかの「ベストミックス」が問われているのは事実である。
同人マークにも全く同じことが言える。コミケでパロディが作られるうちが人気の証、と考える関係者も多いだろう。果たして原作をより多くの人に楽しんで貰い収益をあげるためのベストミックスは何なのか。答えは見えないが、試してみなければはじまらない。どうせ試すなら明るくやるべしが、「赤松流」 と読んだ。「同人マーク」は、果たして日本の二次創作文化を救うのか?

※1「週刊少年マガジン」にて連載中の作品。赤松健『UQ HOLDER!』 47

 

<PROFILE>福井健策[Kensaku Fukui]
弁護士(日本・ニューヨーク州)、日本大学芸術学部客員教授/1991年東京大学法学部卒。
米国コロンビア大学法学修士。現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
Twitter: @fukuikensaku

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